I Still Love You ーまだ愛してるー

I Still Love You ーまだ愛してるー

last updateTerakhir Diperbarui : 2025-04-07
Oleh:  美希みなみBaru saja diperbarui
Bahasa: Japanese
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長谷川日葵と清水壮一は生まれたときから一緒。当たり前のように大切な存在として大きくなるが、お互いが高校生になったころから、二人の関係は複雑に。決められたから一緒にいるのか?そんな疑問を持ち始めた壮一は、日葵にはなにも告げずにアメリカへと留学をする。何も言わずにいなくなった壮一に、日葵は傷つく。そして7年後。大人になった2人は同じ会社で再会するが……。 ずっと一緒だったからこそ、迷い、悩み、自分の気持ちを見失っていく二人。

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第一話

プロローグねえ? どうして何も言わずにいなくなったの?そんなことを私は思いながら、目の前に現れたその人を、亡霊でも見るような思いで虚ろに見つめた。あの暑くて、初めての気持ちを持て余していた夏。 あのときの蝉の鳴き声は今でも、はっきりと覚えているのに……。どうして? どうして? いつまでも私はあなたに振り回されると、生まれたときから決まっていたの?そんな運命は……いらない。 そんな出会いは……いらなかった。愛なんて知らずに生きていたかった。 すべてが変わったあの日。 もう戻れない……笑い合った幸せな日々には。そんなことを思いながら私は、急に真っ白になった視界を最後に、意識を手放した。※※※※※(蝉の鳴き声がうるさい)「蝉だって一生懸命なんだから、そんなことを言ったらいけないでしょ」(お母さんなら、そんなことを言いそうだな……)そう思いながら、今日も朝からラブラブだった両親を思い出して、日葵は小さくため息をついた。もうすぐ夏休みという7月中旬は、嫌になるくらい暑く、どこかの庭に咲いている向日葵さえ下を向いていた。(いつも太陽のほうを向いてなんかいないよ……向日葵だって。水とか与えてもらえなきゃ無理でしょ……)そんなことをブツブツ言いながら、制服のシャツの胸元をパタパタとさせ、真っ青な空を仰ぎ見た。「ひま! 何ブツブツ言ってるんだよ! 早く来い」相変わらずの上から目線の言葉に、日葵は苛立ちを隠せず歩みを止めた。不満げな日葵を見て、少し先を歩く壮一は小さくため息をついた。「お前がいると、俺が遅くなるだろ?」うんざりするように言われ、日葵はその場に立ち止まった。長谷川日葵、高1。 都内の高校に通う、どこにでもいる女子高生だ。そして、同じマンションに住む2つ年上の幼馴染・清水壮一を睨みつけた。(昔は優しかったのに……)日葵は、幼稚園・小学校のころの優しかった壮一を思い出す。 いつも手を引いて歩いてくれていたころを。日葵にとっては、兄であり、友達であり、いつも自分を守ってくれる存在だった。両親が親友同士という家庭で育ったため、生まれたときから当たり前のように一緒で、小・中・高・大学まで一貫校の二人は、いつも一緒だった。しかし、高等部に上がったころから、壮一はまるで別人のようになった。壮一の周りには、いつの間にか...

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26 Bab
第一話
プロローグねえ? どうして何も言わずにいなくなったの?そんなことを私は思いながら、目の前に現れたその人を、亡霊でも見るような思いで虚ろに見つめた。あの暑くて、初めての気持ちを持て余していた夏。 あのときの蝉の鳴き声は今でも、はっきりと覚えているのに……。どうして? どうして? いつまでも私はあなたに振り回されると、生まれたときから決まっていたの?そんな運命は……いらない。 そんな出会いは……いらなかった。愛なんて知らずに生きていたかった。 すべてが変わったあの日。 もう戻れない……笑い合った幸せな日々には。そんなことを思いながら私は、急に真っ白になった視界を最後に、意識を手放した。※※※※※(蝉の鳴き声がうるさい)「蝉だって一生懸命なんだから、そんなことを言ったらいけないでしょ」(お母さんなら、そんなことを言いそうだな……)そう思いながら、今日も朝からラブラブだった両親を思い出して、日葵は小さくため息をついた。もうすぐ夏休みという7月中旬は、嫌になるくらい暑く、どこかの庭に咲いている向日葵さえ下を向いていた。(いつも太陽のほうを向いてなんかいないよ……向日葵だって。水とか与えてもらえなきゃ無理でしょ……)そんなことをブツブツ言いながら、制服のシャツの胸元をパタパタとさせ、真っ青な空を仰ぎ見た。「ひま! 何ブツブツ言ってるんだよ! 早く来い」相変わらずの上から目線の言葉に、日葵は苛立ちを隠せず歩みを止めた。不満げな日葵を見て、少し先を歩く壮一は小さくため息をついた。「お前がいると、俺が遅くなるだろ?」うんざりするように言われ、日葵はその場に立ち止まった。長谷川日葵、高1。 都内の高校に通う、どこにでもいる女子高生だ。そして、同じマンションに住む2つ年上の幼馴染・清水壮一を睨みつけた。(昔は優しかったのに……)日葵は、幼稚園・小学校のころの優しかった壮一を思い出す。 いつも手を引いて歩いてくれていたころを。日葵にとっては、兄であり、友達であり、いつも自分を守ってくれる存在だった。両親が親友同士という家庭で育ったため、生まれたときから当たり前のように一緒で、小・中・高・大学まで一貫校の二人は、いつも一緒だった。しかし、高等部に上がったころから、壮一はまるで別人のようになった。壮一の周りには、いつの間にか
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第二話
「日葵! おはよう」「おはよう」静かに言った日葵に、友人の涼子は怪訝そうな表情を浮かべた。「どうしたの? 壮一先輩と何かあった?」教室に向かう廊下で涼子に確信を突かれ、日葵は小さく頷いた。「なんで私はいたって普通なのに、そうちゃんはあんなにきれいなのかなって」「何よそれ?」意外な言葉だったようで、涼子はポカンと日葵を見た。そう、日葵の周りには、いわゆる美形という人しかいない。日葵の両親も弟も、芸能人と言ってもいいくらい容姿が整っているし、それでいて父の誠は大手会社の社長というハイスペックだ。母の莉乃も、誠を支えて秘書をしていたが、今はその能力を生かして経営の仕事をしている、いわゆる「できる女」だ。「だって、なんで私だけ普通なのかなって。弟の誠真だって、まだ中2なのにめちゃくちゃモテるんだよ」「ああ、誠真くん、高等部のお姉さんたちからも人気だもんね」涼子の言葉に、日葵はうなだれるように顔をしかめた。「それに……」「壮一先輩?」「うん」日葵の言葉に、涼子はポンと日葵の肩を叩いた。「壮一先輩は、まあ別次元の人なんだよ。去年の学園祭のときの美しさは、もう神だったよね」思い出してうっとりするように言った涼子に、日葵もそのときの壮一を思い出す。「ていうか、あれ何の仮装だったのよ?」何なのかわからなかったが、警察官の制服のようなコスプレをしていた。 それがまた、なぜか妖艶で中性的な雰囲気を醸し出していて、これでもかというほど目立っていた。「壮一先輩はさ、あの容姿でクールでしょ。あの冷たい感じが余計に人気があるんだよね」「壮一パパが昔はそうだったみたいだけど、今は壮一ママに逆らえないよ」壮一の父・弘樹は壮一とそっくりの容姿だが、母の香織にはまったく逆らえず、今では「クール」という言葉などどこかに行ってしまっている。 昔は今の壮一みたいだったと両親たちに聞いても、日葵にはまったく信じられなかった。「へえ、そうなんだ。でも、確かにその中にいるのは、なんかね……」そうなのだ。そんな中で、日葵は本当に普通だった。『日葵だって可愛いんだから大丈夫』母の言葉は、いつもどこか慰めのような気がして、日葵は窮屈さをだんだん感じ始めていた。そんな憂鬱な気分のまま一日を終えたところで、教室がざわめいた気がして、カバンに教科書を詰めていた日
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第三話
そんな二人のやり取りに、周りの友人が壮一を見ていることに日葵は気づく。(どこにいても、何をしてても目立つ人だよね)昔から一緒のため、もう周りからは兄妹のように認識されているし、壮一の周りにはいつもきれいな女の人がいるので、特に秀でたところのない日葵は、うらやましがられることも、嫌がらせをされることすらなかった。そして、壮一自身が「こいつは妹だ」と宣言していることもあり、壮一を狙う女の子たちからライバル視されることもなかった。それが嬉しいのか、悔しいのか、日葵は最近わからずにいた。並んで歩いていると、外に出るまでの距離ですら女の子たちの視線が痛くて、日葵は少し後ろを向いて俯きながら歩いていた。「おい、朝も言ったよな? 急げよ」舌打ちでも聞こえてきそうな壮一の声に、「別に一人で行けばいいじゃない」 音になったのかわからないほど小さな声で日葵は呟いたが、次の瞬間、グイッと手を引かれ驚いて顔を上げた。そこには、まっすぐに日葵を見つめる真っ黒な瞳があった。 その瞳に、何か言いたいことがあるのかすら、日葵にはわからなかった。昔はよくこうやって手を引かれて学校へ通っていたが、今こんなことをすればどうなるか――日葵にはよくわかっていた。(キャー!!)悲鳴にも似た声とともに、一斉に日葵へ向けられる視線。「ねえ、そうちゃん。もう小さくないんだから、この手やめてよ」「お前はいつまでたっても、小さなガキだろ?」ため息とともにズルズルと引っ張られる様子に、周りからは安堵の声が漏れる。「ほら、やっぱりあれは小さな子を連行してるだけでしょ?」日葵はもう何かを言う元気もなく、それどころか――昔のようにつながれた手を、なぜか放したくなくて、キュッと少しだけ力を込めた。この気持ちは、周囲からの言葉への反抗なのか、それとも……。 壮一の骨ばった大きな手が、昔とは違うことに気づき、日葵はドキッとした。自分の中で感じたくない思いが湧き上がり、日葵は必死にそのことを頭から追い払った。校門を出ても、いろいろな人の視線はやはり壮一に向けられる。 昔からのこととはいえ、日葵はチラリと壮一を見た。そんな中、隣に日葵がいるにもかかわらず、どう見ても大学生くらいの年上の女性が、遠慮なしに壮一に声をかける。「ねえ、どこか行かない?」「いえ、まだ学生なので」少しだけ微笑
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第四話
~8年後~「ようやくだな」誠の言葉に、壮一は微笑を浮かべた。「社長、今日からよろしくお願いします」真面目な顔で頭を下げた壮一に、誠はじっと視線を向ける。「本当にいいのか? すぐに父親の会社に入ってもいいんだぞ?」誠の言葉に、壮一は少し言葉を選ぶようにして答えた。「親父の会社のことは、弟もいますし、これからどうなるかわかりませんが……今はこの会社でやりたい仕事をさせていただきたいと思っています」父・弘樹の会社は、広告業を営んでいる。「それに……父も若いころは別の会社で働いていましたし、何のコネも関係なく、仕事をしたいと思っています」そんな壮一の言葉に、誠は表情を緩めると、ふっと息を吐いた。「そうか。ここからは、もう一人のお前の父親としての意見も入るかもしれないが」そう前置きすると、誠は座っていた椅子から立ち上がった。「壮一の作る音楽は、うちの会社にとっても願ってもない才能だ。だから俺としては、大切な息子が来てくれて嬉しいけど……弘樹からは恨まれてるよ」その言葉に、壮一も小さく頷き、笑顔を見せた。「アメリカで学んだことも多いだろう。期待してる。それに……」少し含みを持たせた誠の言葉に、壮一は唇をギュッとかみしめた。「アメリカに行く前に言っていた答えは出たのか?」「それは……」【このまま当たり前のように日葵といることが、本当に俺たちのためになるのか、わかりません】18の、まだ若い頃。 そう言って、日葵に何も告げることなく、アメリカの大学への留学を決めた。壮一は、そこで言葉を止めた。あれから8年が経った。アメリカのゲーム会社での経験も積んだ。そして、誠の会社が参入するゲーム業界で、音楽を手がけるために帰国し、入社することになった。それはすなわち、もう一度、日葵と向き合うということだった。日葵が生まれたときから、当たり前のようにずっと一緒にいた。 しかし、あの頃――このまま日葵が自分に好意を持ってしまうことが、壮一にはなぜか怖かった。可愛くて、自分のことより何よりも大切だった日葵。 どんなことをしても守る。そう思っていたことは確かだった。しかし、それが兄のような気持ちなのか、異性としての感情なのか、壮一にもわからなかった。それに……。それ以前に、日葵が自分しか知らない世界の中で、自分を選んだとしても―― いつ
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第五話
「長谷川さん、食事でもどう?」日葵は、声をかけてきてくれた男性に、申し訳なさそうに頭を下げた。「ありがとうございます。でも……すみません」決まり文句のようになってしまっている自分自身を嫌悪しつつ、日葵は頭を下げる。「そうか……彼がやっぱりいるの?」諦めきれない様子のその人に、日葵は肯定とも否定とも取れないように曖昧に頷き、もう一度小さく頭を下げた。「日葵、また?」化粧室から出ると、急に声をかけられた日葵は、後から出てきた同僚の佐奈に気まずそうな表情を浮かべた。「だって……」「とりあえず食事ぐらいいいじゃない? 今の人、営業部でも人気のある人よ?」すでにその人の後ろ姿は見えなくなっていたが、佐奈はその方向を見ながら日葵に言った。「日葵はさ、そんなにきれいなんだから。恋愛の一つもしないともったいないわよ」肩をすくめながら言う佐奈の言葉に、日葵は自嘲気味な笑顔を浮かべた。「きれいになった……か」綺麗になった原因が、壮一だということは日葵としては認めたくなかった。だが、壮一が何も言わずにアメリカへ行ってしまった後、日葵は自分でも驚くほど落ち込んだ。そのおかげというわけではないが、思春期に少しぽっちゃりしていた日葵は、体重が落ちた。そして、壮一がいなくなった喪失感を、勉強やダンスで埋めることで、結果として今となっては自分磨きができたように思う。今ではあの頃とは違い、きちんとメイクをし、髪も伸ばしている。もちろんヒールの靴だって履くようになった。「それはそうと、プロジェクトの進行はどう?」佐奈の言葉に、日葵は真剣な表情に戻すと、佐奈を見た。「ある程度のところまでは来てるかな。開発自体は順調だし、シナリオライターさんも優秀な人だし、チーフとして音楽担当の人も、もうすぐ新しく入ってくるって聞いてるしね」日葵は、それらの進行の管理や外注スタッフとの調整など、プロジェクトの雑務を一手に引き受けていた。もともと副社長の娘であることは一切伏せて入社しているし、誠も娘だからといってひいきをするような父親ではない。当初は営業部に所属していたが、どうしても新しく立ち上げられるアプリゲームに携わりたくて異動願を出し、ようやくそれが叶ったのが3カ月前だ。大企業が新たに参入するということで注目度も高く、まずは大手ゲーム機向けソフトの販売から始まり、
last updateTerakhir Diperbarui : 2025-03-07
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第六話
「長谷川、大丈夫か?」「部長……」以前の部署で世話になっていた崎本を見て、日葵は小さく頷いた。崎本は日葵より十歳年上の三十四歳で、いつも優しく頼れる上司だ。三カ月ほど前、崎本から好意を持っていることを伝えられていたが、「返事はいらない」と言われ、曖昧な関係が続いている。日葵としても、壮一を引きずっているつもりはなかった。だが――あのときの喪失感から、「誰かと付き合う」ということを、どこかで敬遠してしまっている自分がいる。そんな日葵を、ゆっくりとそばで見守ってくれているのが、崎本だった。ゆっくりと日葵のもとへ歩いてくると、崎本は日葵の顔を覗き込んだ。「まだ顔色がよくないぞ」「もう大丈夫です。でも、部長……どうして?」その言葉に、崎本は少し照れたような表情を見せた後、諦めたように言葉を続けた。「倒れたって聞いて、いてもたってもいられなかった」まっすぐに伝えられた言葉に、日葵は顔に熱が集まるのを感じた。「あ……ありがとうご……」言いかけた日葵の言葉を遮るように、鞠子が声を上げる。「ハイハイ、部長さん。その子、連れて行って。日葵、無理するんじゃないわよ」ひらひらと手を振る鞠子に、日葵も小さく頷いた。「戻るの?」崎本の心配そうな言葉に、日葵は申し訳ない気持ちを抱きながらも、小さく頷く。やはり、このまま仕事を放り出すわけにはいかない。そう思うと、崎本に頭を下げ、自分の席へと戻った。部署に戻ると、壮一たちはずっと打ち合わせをしているようで、ミーティングルームにこもっていた。顔を合わせなくていいことに安堵しつつ、なんとかその日の仕事をこなしていた。「終わるか? 送るよ」その言葉に顔を上げると、優しい微笑みをたたえた崎本の顔が目に入る。日葵は、ほっと息を吐いた。「あっ、こんな時間……。ありがとうございます」「集中していたから、声をかけるのをためらったよ」日葵自身、崎本に対する気持ちが、上司としての尊敬なのか、それとも愛情なのか――わからなかった。それでも、崎本の優しさは、日葵にとってありがたかった。そっと、日葵の額に崎本の手が触れる。この部署は他と違い、隔離されていて――今、この空間には、日葵と崎本の二人だけだった。「熱はないな」少し躊躇したような手の動きに、日葵は微笑んだ。「もう大丈夫ですよ。部長、心配し
last updateTerakhir Diperbarui : 2025-03-07
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第七話
「お邪魔して悪かったね。俺は長谷川さんの元上司でね。今日、倒れたと聞いたから様子を見にね」「そうでしたか。わざわざありがとうございます」さらりと言葉を発した壮一は、引き出しの中から何かを取り出すと、にこやかな笑みを日葵に向けた。「長谷川さん、あまり無理しないようにね」昔から、声をかけてきた人を断るときに向ける、あの笑顔――。その瞬間、日葵の心がギュッと握りつぶされたようで、息ができなくなる気がした。「あ……ありがとう……ございます」何とか声を絞り出すと、震えそうな手で日葵は荷物をカバンにしまう。「部長、行きましょう。送っていただけるんですよね?」なんとか平静を装いながら立ち上がり、崎本を見た。「ああ。行こうか」「お疲れ様です」抑揚のない壮一の声が聞こえ、日葵は小さく会釈すると、足早にフロアを出た。(あの人といると、自分が自分でなくなる)ずっと昔から、生まれたときから一緒にいた壮一だったのに――。今は、誰よりも遠く、まるで知らない人のように感じた。崎本の車が駅のロータリーに着くと、日葵はお礼を言い、降りようとした。「待って。本当に大丈夫? 俺は家を知ってても押しかけるような真似はしないよ?」少しふざけたように言う崎本に、日葵は苦笑した。「そんなことは思っていないです」どうしても、やはり家まで送ってもらうことをためらってしまった自分に、内心ため息をつく。「君は本当にガードが堅いな」その言葉に、日葵自身、どう答えていいのかわからず俯いた。「他の男たちの間でも有名だよ。絶対に食事にも行けないって―― あっ、悪い」そこまで言って、崎本は大きなため息をつくと、髪をかき上げた。「悪かった。少しだけ、そいつらよりは俺のほうが君に近いのかなって思ってしまって」その言葉に、日葵は考えた。確かに、崎本と一緒にいると安心するし――壮一のことを忘れさせてくれる気がしていた。「それは……」「いい! 何も言わないで。長谷川の弱さにつけ込んで、返事を聞くのを先延ばしにしてるのは俺だから。もう少し時間をかけさせて」ふざけているように見せかけつつも、真剣な瞳に――日葵は小さく頷いた。「ありがとうございます」今度こそ車を降りると、日葵は崎本の車を見送った。駅から徒歩数分のマンションに、日葵は住んでいる。実家からでももちろん通えるが
last updateTerakhir Diperbarui : 2025-03-07
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第八話
「引っ越しの挨拶をしようと思って」威圧的なほどの態度で、エレベーターを背に日葵を囲うように立ち、上から見下ろしていた壮一。その意外な言葉に、日葵は呆然として壮一を見上げた。「え? 引っ越し?」少し間抜けな声が出た気がして、日葵は慌てて視線を逸らす。「ああ。お前の隣の部屋」さらりと表情を変えずに言う壮一に、今度こそ日葵は大きな声を上げた。「うそでしょ! ありえない!」(そうよ、ありえない。なんで今さら、この人に私の生活を乱されなきゃいけないの?)苛立ちとともに、あの8年前の気持ちがざわざわと蘇り、日葵はきつく唇を噛んだ。「ありえないか……」その言葉に、少しだけ表情を変えた壮一。日葵は小さく息を吸い込むと、壮一を睨みつけた。「隣なんて迷惑。もう私はあの頃の私じゃないし、清水チーフがいなくてもやっていけます。だから、私にもう構わないで」一気にそれだけを言うと、日葵はするりと壮一の腕をすり抜け、自分の部屋へと向かった。「日葵」後ろで聞こえたその声に――ドクン、と胸が鳴る。悟られないように、日葵は振り返ることなく自分の家のドアの前で動きを止めた。「お前、あの部長と付き合ってるの?」「あなたには関係ないでしょ?」抑揚なく言った日葵の言葉に、壮一はすぐに返事を返さなかった。その沈黙を無言と受け取った日葵は、鍵を開けるとするりと体をドアの中へ滑り込ませた。「関係……ないな」壮一の呟いた言葉に、驚くほど胸が痛んだ。自分で言った言葉なのに。「関係ない」と、壮一の口から発せられたその言葉が、ぐるぐると頭を巡る。そんな自分を叱咤しながら、パッと着替えてキッチンへ向かう。「何があったかな……」いろいろなことがありすぎて、なぜか落ち着かない。日葵は、一心不乱に野菜を切り始めた。「嫌だ……こんなにどうするのよ、私」まな板の上に山盛りになった野菜にため息をつくと、そのまま鍋へ放り込む。(もう面倒だから、スープにでもしちゃおう)そう決めると、コンソメとトマトで簡単に味をつける。日葵は、ぐつぐつと煮え始めた鍋の中をじっと見つめた。壮一さえ帰ってこなければ、こんな気持ちを味わうことなどなかったはずだ。(どうして同じ会社に入ったの? 壮一なら、自分の父親の会社に入ればいいはずよね)そんなことを思っても、事実として――これから毎
last updateTerakhir Diperbarui : 2025-03-08
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第九話
「日葵、お前、もう俺のこと……」そこまで言いかけた壮一に、日葵は言葉を投げつけた。「私を捨てていったあなたの言葉なんて聞きたくもないし、関わりたくもないから、早く出て行って」言い捨てた瞬間、壮一の雰囲気が一瞬で変わった気がして――日葵はハッとする。だが、それはほんの一瞬の出来事だった。「とりあえず飯、食わせて」まるで何事もなかったかのように、壮一は淡々とした声で言った。「食わせろとか、何様なの? どうして私がご飯を作らなきゃいけないの?」啞然としながら日葵がそう言うが、壮一は聞いているのかいないのか、気にする素振りもなくリビングへと足を踏み入れる。「俺の部屋と逆だな」そんな言葉を呟きながら、部屋の中を見渡す壮一に、慌てて日葵は声を上げた。「見ないでよ! そして出て行って!」だが、そんな声はまるで届いていないかのように、壮一はリビングの真ん中に置かれたグレーのソファへと腰を下ろした。「なかなか座り心地もいいな」つぶやくように言う壮一に、日葵は怒りを通り越し、戸惑いでいっぱいになる。「何してるの?」その問いに、壮一は不敵な笑みを浮かべ、日葵をじっと見据えた。「なんだと思う?」「知らないわよ」質問を質問で返され、日葵は頭がパンク寸前だった。生まれたときからずっと一緒だったのに――呆気なく、あっさり自分を捨てた人。憎んでさえいたと思う。その人が突然目の前に現れた現実すら、日葵には受け入れがたいのに。今、こうして自分の家で寛ぐその人を見て――日葵は、どんな感情を持てばいいのだろう?答えがわかるはずもなく、日葵はどうすることもできずにいた。ただリビングの入り口に立ち、壮一を目にする。見ている、というのとも違う。睨むわけでもない。ただ、それが視界に入っているだけ。まるで絵を見るような気分だった。それほど、壮一がそこにいるということが信じられなかった。そんな日葵のことなどお構いなしに、壮一はキョロキョロと部屋を見回す。「ひま、いい匂いする。なに?」昔よりも低く響くその声に、日葵は反応できなかった。そんな様子を見た壮一は、小さくため息を吐くと立ち上がり、日葵へと距離を詰めた。「日葵? まだ調子悪いのか?」(なんて的外れなことを言うのだろう?)そう思いながらも、ようやく日葵は壮一を睨みつける。「そう思うなら、帰
last updateTerakhir Diperbarui : 2025-03-10
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第十話
(悲惨……)いつ眠ったのかわからなかった。朝、鏡を覗き込んだ日葵は、自分の顔を見てため息をつく。腫れぼったい目に何とかメイクを施したが、いつも通りにはいかず、諦めた。昨日の昼から何も食べていなかったが、食欲はない。しかし、仕事に支障が出るといけないと、冷蔵庫のオレンジジュースを手に取り、一気に胃へ流し込んだ。いきなりの冷たさに、胃がキリキリと痛む。日葵は顔をしかめた。グラス半分ほどのオレンジジュースをキッチンに置き、ふと窓の外を見る。今にも雨が降り出しそうな空模様に、さらに気分が沈む気がした。『今日の東京は終日雨が降るでしょう』ただつけっぱなしになっていたテレビのお天気お姉さんの声が耳に入る。日葵はもう一度、空を見上げた。肌寒くなってきたこの季節の雨は、気温をぐんと下げる。温かい季節なら、もう少し気持ちも晴れるのかもしれない。雨の日は昔から頭痛がする。ため息をつく気力すら湧かなかった。しかし、そんな日葵の気持ちとは関係なく、時間は過ぎる。手早く支度を済ませ、玄関を出た。「ひどい顔」知らず知らずのうちに俯いていたのか、エレベーターホールで響いた声に、日葵はびくりと肩を揺らした。『ひどい顔』その言葉をどんな気持ちで発したのか、日葵にはわからなかった。だが、これ以上心を乱されたくなくて、何も言わずに壮一の横を通り過ぎた。「待てよ」少し苛立ちを含んだ壮一の声。日葵は、それにも答えず、早くこの場を離れたくてエレベーターのボタンを押す。しかし、まだ来る気配がない。内心焦りながら、日葵は階段へ足を向けた。「送って行くから、乗って行け」意外な言葉に驚いて壮一を見た。「ようやく俺を見たな」冷たく揺れる壮一の瞳に、日葵は慌てて視線を逸らす。「大丈夫です」それだけを短く返し、階段を降りようとする。「いいから。体調悪いだろ?」(知ったふりしないでよ……)そう言い返したかったが、その言葉をぐっと飲み込み、日葵は小さく呟いた。「あなたに送ってもらう理由はない。もう構わないで」そう言い残し、階段を駆け下りた。確かに体調は良くなかった。重い体を引きずるように電車に乗り、会社の最寄り駅で降りる。今にも降りだしそうな空だったが、まだ雨は落ちていない。日葵は傘を握りしめ、駅の出口へ向かった。「長谷川。おはよう」後
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